今回は、
映画『老後の資金がありません!』のレビューです。
映画『老後の資金がありません!』は面白い!?
本作の感想を一言で表すと、
「安定して楽しめる一作」です。
笑いごとではない「老後2000万円問題」を、
笑いをまじえて題材にしてくれているところに本作の暖かさを感じます。
結局のところ、
テーマは、「一番大事なのは、お金じゃない」的なベタなものです。
ただ、
ライフイベントを経るごとに貯金が失われていく深刻さは、
とても他人事に感じられず、
少し胸が痛くなります。
そういう意味では、
いろいろな経験をされている人の方が、
本作の内容は、胸に刺さると思います。
ご家族でご覧になって、
おうちの経済状況について、
意図的に話し合う機会を作ってもいいかもしれませんね。
映画『老後の資金がありません!』のココが面白い!?
キャスティングが秀逸!?
まず、本作の面白さの一つは、
やはり、絶妙なキャスティングにあると思います。
本作の物語は、
2022年に惜しまれながら、
解散したお笑いコンビ:ピスタチオの端役の演技で幕を開けます。
この初撃のユニークな配役で、
物語への興味は、一気に高まります。
その後も、随所に
柴田理恵さんや佐々木健介さん、北斗晶さんご夫妻といった、
本業が俳優ではない方々が、
絶妙なポジションで登場します。
この仕掛けには、
「次は、どんな人が出演するのだろう」
と嫌でも期待してしまいます。
極めつけは、
三谷幸喜さんが登場するシーンです。
本当なら、すごくひやひやするような展開でしたが、
三谷さんのコミカルな演技のお陰で余計な緊張をせずに、
おだやかな気分で映画を鑑賞できました。
この手の作品に緊張感は、
一切必要ないと私は思っています。
そして、
何より、すばらしいのは、
主演の天海祐希さんです。
中年の経済的不安をすごくリアルに表現されていて
とても演技とは思えない演技でした。
天海さんに限って
そんな経験はされたことはなさそうですが(笑)
さすがは宝塚歌劇団の名は伊達ではありません。
「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべき」なんですよね
本作のすばらしい点は、
深刻な問題を笑いをまじえて
優しく伝えていることだと私は思っています。
伊坂幸太郎先生の『重力ピエロ』に、
以下のような忘れられないセリフが登場しました。
「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」
伊坂幸太郎『重力ピエロ』より
『老後2000万円問題』は、
私たちにとって、非常に深刻な問題です。
それをコミカルに伝え、且つ、
それに対して、軽妙に解を示してくれているところに本作の暖かさを感じます。
あなたは、65歳で定年する時、
2000万円という資産を
築いている自信がありますか?
自信あるとしたら、
その自信はどこから来るのでしょう?
数年後に、リストラに合うかもしれません。
来月には、
とんでもない部門に配置転換させられ、
病気になって働けなくなることだって、
平気であり得てしまうのです。
あなたが、
「老後2000万円問題」に
何の不安もないとしたら、
それは、ただこれまでの人生で運が良かっただけなのです。
油断していると、
あなたの勝ち組的なポジションは、
あなたが思っているよりも、
あっけなく崩れ去るでしょう。
すでに2000万円を確保している人だって
例外ではありません。
もし、投資での失敗や詐欺に合えば、
あなたの虎の子の資産は、
あっという間に失われてしまいます。
インフレの影響だって無視できません。
なぜなら、
あなたが貯めた2000万円は、
何もせずとも、
今後の数年で、目に見えにくい形で、
少しずつ価値を失っていくからです。
突き詰めれば、
この世に経済的な安全地帯など
どこにも存在しないのかもしれません。
だからこそ、
「人とのつながりを大事にして、見栄を捨て、お金から自由になろう!」
というのが、本作の大きなメッセージの一つだと私は解釈しました。
篤子を取り巻く環境には少しだけイライラ!?
コメディ映画なので、演出がやり過ぎなところはあるのですが、
天海祐希さん演じる『篤子』を取り巻く環境には、
少しだけイライラさせられてしまうところもありました。
家にお金がないにも関わらず、
夫はプライドを捨てきれず、
娘はお金や食事を無心しに来て、
おばあちゃんは、浪費家で本能のままにお金を使いまくります。
そんなこんなで
お金がどんどん失われていく状況は、
見ていて少し胸が痛くなりました。
お金がない中で、
家庭の経済状況を考えず、
みんながお金を使い放題という状況には
「危機感はないのか!?」
と少しイライラさせられてしまいます。
資本主義の社会において、
お金は、命と同じほどの価値があると言っても過言ではないはずなのに、です。
そして、
何より、残念なのが、
「お金がない。助けてほしい。」
と言えない篤子です。
篤子は、お金を節約するために
家内で孤軍奮闘するも、
状況は、なかなかよくなりません。
稼ぎが足りていない家庭に悲壮感がないのは、
コメディ映画だから、仕方ないのかもしれませんが、
危機感がない人が多すぎて、
なんだか見ていてつらくなってしまいます。
篤子の家計管理に絶対の信頼を寄せているのか・・・
そもそも危機感というものを感じない方々なのか・・・
こういう時は、
責任感が強い人の一人負けなのかもしれませんね(笑)
何にでも言えることですが、
負担はみんなで分かち合いましょう。
「老後2000万円問題」の解は一つではない!?
本作では、
「老後2000万円問題」の一つの解が、示されています。
ネタバレを避けるため、
あえて内容を書くことはしません。
ただ、本作に秘められたメッセージは、
「『老後2000万円問題』を解決するために、映画のマネをしながら生きていけ!」
というものではないので、
あえてネタバレを避ける必要もないかもしれませんが。
本作の大きなメッセージの一つは、
「人とのつながりを大事にして、見栄を捨てて、お金から自由になろう!」
ということだと私は解釈しました。
つまり、
自分に合っている形で、
「人とのつながりを大事にして、見栄を捨てて、お金から自由になる」方法を、
自分自身で考えていけばいいのではないかと思います。
その方法が、
あなたの「老後2000万円問題」の解になるのではないでしょうか。
例えば、
ローンが残っている豪邸を売り払って、
土地や生活コストの安い田舎に引っ越して、
質素に生きていくのもいいかもしれません。
仲が悪くないならば、
義理の両親と楽しく同居するという選択肢もあるかもしれませんね。
同居とまでは、いかなくとも
地元に帰って、両親や親族とゆるく助け合いながら、
生きていくのもありだと思います。
このご時世なので、
利害の合う仲間とハウスをシェアする
という方もいらっしゃるでしょう。
時代は目まぐるしい早さで激変しています。
いつまでも自分のカラを破れない人種の方は、
恐竜のように絶滅してしまうのかもしれません。
そういう意味では、
本作には、新時代を生き残るためのヒントが
ちりばめられているようにも思います。
将来に漠然とした不安がある方は、
いろいろなことを考えながら、
本作を視聴してみるのもいいかもしれませんね。
映画『老後の資金がありません!』ってどんな映画?
映画『老後の資金がありません!』の作品情報
- 監督: 前田哲
- 脚本: 斉藤ひろし
- 原作: 垣谷美雨(小説『老後の資金がありません』)
- 製作:
- 平野隆
- 岡田有正
- 下田淳
- 音楽: 富貴晴美
- 主題歌: 氷川きよし「Happy!」
- 撮影: 佐光朗
- 編集: 高橋幸一
- 制作会社: ツインズジャパン
- 製作会社: 映画『老後の資金がありません!』製作委員会
- 配給: 東映
- 公開日: 2021年10月30日
- 上映時間: 115分
- 興行収入: 12億4000万円(2022年1月時点)
映画『老後の資金がありません!』のキャスティング
- 天海祐希: 後藤篤子
- 松重豊: 後藤章
- 新川優愛: 後藤まゆみ
- 瀬戸利樹: 後藤勇人
- 加藤諒: 松平琢磨
- 柴田理恵: 神田サツキ
- 石井正則: 桜井秀典
- 若村麻由美: 桜井志津子
- 友近: 本間
- クリス松村: 城ケ崎君彦
- 高橋メアリージュン: レイナ
- 佐々木健介: 松平金造
- 北斗晶: 松平美和
- 荻原博子: 荻原博子(本人)
- 竜雷太: 太平
- 藤田弓子: 波子
- 哀川翔: 天馬
- 毒蝮三太夫: 大泉健三
- 三谷幸喜: 森口
- 草笛光子: 後藤芳乃
映画『老後の資金がありません!』の原作情報
- 著者: 垣谷美雨
- 発行日:
- 単行本: 2015年9月25日
- 文庫本: 2018年3月23日
- 発行元: 中央公論新社
- ジャンル: 長編小説
- 形態:
- 単行本: 四六判
- 文庫本: 文庫判
- ページ数:
- 単行本: 300ページ
- 文庫本: 320ページ